「人間というものは、アナーキックな偶然と恣意に為す術もなく身を委ねて没落するか、あるいは一つのイデオロギーの硬直し、
狂気じみた首尾一貫性に身を捧げるかという、前代未聞の選択の前にたたされたときには、必ず後者の首尾一貫の死を撰び、
そのために肉体の死すら甘受する」
「全般的崩壊の混沌の中にあって虚構の世界へのこの逃避は、
ともかくも彼らに最低限の自尊と人間としての尊厳を保証してくれると思えるから」
「一時的な世界観を有し、あらゆる矛盾を含まない世界観を持ちたいというよく知られた願望は、
現代の大衆が経験に適応できないことに由来し、またあらゆるイデオロギーの真の動因となっているのであるが、すでにこうした願望は中に、
現実性と事実性、すなわちかぎりない多様性を持ち、
一元的に把握することのできない純粋の所与性としての現実性と事実性への蔑視が存在するのである」
(「全体主義の起原」 ハンナ・アーレント 大久保和郎 大島通義訳 みすず書房)