2007/02/15

アーバスの写真の主題

アーバスは最も厳密な意味で、「個性派作家」なので、近代ヨーロッパ絵画史では半世紀間瓶の静物ばかり描き続けたジョルジォ・
モランディがやはりそうだが、写真史では異例のことである。
彼女はたいがいの意欲的な写真家のように手広く題材を扱うということはいささかもしなかった。それとは反対に、
彼女の主題はすべて等価である。そして奇型人、狂人、郊外に住む夫婦、ヌーディストたちを平等に扱うということは強力な判断であり、
教育あるリベラル左派のアメリカ人の多くに共通に認められるある政治的気分と共犯関係にある。
アーバスの写真の被写体は全部同じ家族の構成員で、ただひとつの村の住民なのである。ただ、あいにく白痴の村がアメリカなのである。
異なるものの間の同一性(ホイットマンの民主的展望)を示すかわりに、だれもが同じに見えるように示されている。


(「写真論」 スーザン・ソンタグ 近藤耕人訳 晶文社)