「個人主義は新しい思想の生んだ最近の言葉である。われわれの祖先は利己主義しか知らなかった。
利己主義は偏執的で度を超した自己愛であり、何事をも自分の利益にのみ関わらせ、すべてを措いて自己を撰ぶ態度に人を導くものである。
個人主義は静謐な思慮ある感情であって、個々の市民を同胞の群れから引き離し、家族と友人との別世界にひきこもらせるものである。それゆえ、
各自がこうして自分の小世界をつくりあげてしまうや、社会全体の方は進んでその動きに任せてしまうのである。」
「すべての人間の類似が進めば進むほど、誰もが全体に対して自己をますます無力と感ずる。自分が他のすべての人よりはるかに優れ、
彼らから区別される点は何も見当たらないので、彼ら全体と対立するとすぐ自分の方を疑う。自分の実力を疑問視するにとどまらず、
その権利にも疑惑をもつに至り、さらには大多数の人に間違っていると言われるときには、自分の誤りを認めんばかりの有様である。
多数者は強制する必要がない。人を説き伏せてしまうのである。」
(「アメリカにおけるデモクラシー」 A.トクヴィル 岩永健吉郎 松永礼二訳 研究社)