「写真は憐憫の情を場違いなものに感じさせる。動転しないこと、恐ろしいものを冷静に直視できることが主眼なのである。しかし
(主として)同情心のないこの視線は特殊な、近代の倫理の構成物であって、不人情というのでなく、ましてや皮肉などではなく、ただ単純に
(あるいはまちがって)無邪気なのである。その痛ましい、悪夢のような現実に対してアーバスは「ぞっとする」「おもしろい」「信じられない」
「すばらしい」「きわものの」といった形容詞を当てたが、それは俗なあたまの子供っぽい驚きである。
写真家の探求についての彼女のわざと無邪気なイメージによれば、カメラはそれを一切とらえ、
被写体に自分たちの秘密を打ち明けるように誘惑し、経験を拡げる装置である。アーバスによれば、人間を撮影することは当然ながら「残酷」で
「卑劣」なことである。大事なことは、見て見ぬ振りをしないことだ。」
(「写真論」 スーザン・ソンタグ 近藤耕人訳 晶文社)