2007/02/10

ダゲレオタイプとポートレート

「ダゲレオタイプとは、1839年にフランス人のルイ=ジャック=マンデ・ダゲールが発明し、
その製法が公表された世界最初の写真術であり、金属板(銀メッキを施した銅板)を使用した1点限りの画像を作り出す技術である。
ダゲレオタイプはポートレート写真を制作するための手段として欧米を中心に広まっていき、
都市部を中心として肖像写真が次々と開設されていった。人々は肖像写真館や地方を巡業する写真師に依頼するなど、
こぞってポートレート写真を撮影してもらったのである。ダゲレオタイプの発明と普及を契機として、
それまでは王侯貴族などの限られた階級の人しか所有できなかったポートレートが、広く人々の手に行き渡ることになった。


ダゲレオタイプの撮影に使われる金属板のサイズは通常5×6センチから16.5×21センチくらいであり、
ポートレート写真はほとんどの場合、手のひらに収まるような大きさだった。ダゲレオタイプの特徴は、
細密画のような鮮明なディテールと階調の豊かさにあり、顔や衣服の写っている部分に彩色を施すことによって、
よりリアルな印象を作り出すような試みもおこなわれていた。表面を覆う被膜はきわめて薄く傷つきやすかったため、
表面にはガラスがかぶせられ、紺色やえんじ色のような深い色合いの革やベルベットの布を内側に貼ったケースの中に収められていた。


ダゲレオタイプのなかには、ボタンに埋め込んだり、指輪やブローチ、ペンダントのようなアクセサリーに仕立て上げられるものもあった。
つまりダゲレオタイプのポートレート写真は、壁に掛けて眺めるというよりも、手鏡やアクセサリーのように肌身離さず持ち歩いたり、
身につけたりすることができるものだった。ダゲレオタイプを手に取って見る人は、
写っている人に接近したり触れたりするような親密な感覚を感じ取っていたのだろう。」


(「写真を<読む>視点」 小林美香 青弓社)