2007/05/10

生活習慣病とは

プロパガンダの一つの特性は、形容詞を多様することにある。ナチ政権下では「抜本的」や「永久的」ということばや、「悪い科学」とか
「適確な・不適格な」という表現を多用した。


例えが好きで、ガンを「ユダヤ腫」と呼び、「遺伝子欠陥者は国家のガン」とか「ガンは内戦を画策する革命分子、無政府主義者、
ポリシェビキ、共産主義者だ」といった。「発生期のガンは身体中の、他の人種と異なる細胞の新しい人種とみなすべきで、
治療の目的は病因となる人種の撲滅にある」とも述べている。


ベルリン大学教授のハンス・アウラーは「第三帝国が国民の健康維持を基礎としていることは幸いである。遺伝学・教育・スポーツ・
大学院研究・ヒトラーユーゲントや突撃隊・親衛隊での体育・結婚資金貸付・家庭衛生・隣保事業・職業斡旋等々の政府の政策はすべて、
ガン予防の措置と見なしうる」と政策の全てを称賛した。


なぜナチのことを紹介したか。ナチと同じ心性操作が今のアメリカや日本に多いからだ。2000年に日本の社会保障審議会で、「成人病」
を「生活習慣病」と改称することに決定した。命名したのは委員の一人、日野原重明である。


1937年、ドイツの遺伝学者カール・ハインリヒ・バウアーは「ガンの発生は生活習慣病」という論文を発表し、1939年、
アルトゥル・ヒンツェは「生活習慣と宗教が世界各地のガン発生率の違いを生む」と研究発表し、両説は熱心なナチ党員に支持された。(
「健康帝国ナチス」 プロクター 草思社)


生活習慣病には自己責任の意味が含まれる。健康保険が赤字の現在、自己責任で自己を管理し、医療費を抑制し、
ゆくゆくは公的保険を廃止し、民間保険に切り替えることを目指す。すでに混合診療の名のもとに民間医療保険が開始されている。


ナチ政権下で国民健康保険が実施されたが、自己責任を果たさなかった者に医療費の支給を抑えた。同じく日本でも、
このことばがでてきた直後に、健康増進法がだされ「健康は国民の義務」とされ、介護保険が改正され、
多数の老人や障害者が公的施設から追放された。


矢島嶺は病気の原因は三つあると説く。一つは有害物質や細菌や事故やストレス、二つ目は遺伝や加齢、
三つ目は食生活や運動や喫煙や休養の生活習慣である。この三者の内生活習慣のみを強調するのは、政治的意図以外何ものでもないと説いている。
(Bricolage 0六年五月号)


(「現代思想」 2007年4月号 「教育と心性操作」 佐々木賢 P117)