ダイアンは、カメラを向けられる人間につきもののストイックな自己満足も観察しつづけた。その一例は『エスクァイア』
の編集室で撮ったリー・ハーヴェイ・オズワルドの母親のポートレートである。三十分しか時間がなかった。
オズワルド夫人がやってきたのは息子の手紙を雑誌に売るためだった。「息子の遺品を片っ端から売り歩いていました」と、
ダイアンは語っている。「それだけでなく、信じられないくらい誇らしげな顔をしていたのです -
自分が世界一すごいことをやったというようでした・・・・・・経験をつんだ看護婦みたいにも見えました・・・・・・笑っていたけど -
どこか不自然でした。何故笑っていたのでしょう? 何がそんなに嬉しかったのかしら? ほとんど話はしませんでした。
向こうは話をしたくてうずうずしていましたが。実際、彼女にとっては最高の瞬間だったのです。
(彼女の息子はケネディ大統領を暗殺したのですが)その様子は息子が何かすばらしいことをやってのけたというようでした。
息子を身籠もってからの四十年間というもの、自分がすべてを裁量してきたみたいで、信じられないほど威厳にみち、
誇らしげな表情を浮かべていました」
(「炎のごとく 写真家ダイアン・アーバス」 パトリシア・ボズワーズ 名谷一郎訳 文藝春秋 P392-P393)