一時期、ダンス教室に通って太腿の贅肉を取ろうとしたこともある。ひとりの女友だちが一緒だったが、
あるとき更衣室で着替えていたとき、ダイアンは彼女に年をとるのがこわいと打ち明けた。その頃、ダイアンはパームビーチの母親を訪ねた。
ガートルードはあいかわらず元気だった - なお美しく、「積極的で」、煙草を手放さず、買物を楽しみ、カード遊びに興じていた - が、
ダイアンの知っている他の人びとはそうではなかった。弱々しい老夫婦が -歩行器や杖にすがって - 日のあたる歩道をとぼとぼ歩いていた。
うつろな視線は虚空をさまよっていた。話題といえば心臓移植、使いやすい補聴器、動脈硬化や肝臓癌にかかった知人のことばかりだった。
そのような老人たちを目にすると、ダイアンはひどく気持ちが沈んだ。年をとりたくはなかった!
肉体は老化するのに想像力は衰えないと思うとたまらなかった。自分の想像力が前よりもずっと鋭く、奇抜になっていると感じていたのだ。
あるとき、鏡にうつった美しい友人の顔を見つめながら、ダイアンは「あなたが羨ましいわ」とつぶやいた。年齢はあまり違わないのに、
彼女が皺ひとつなく張りきった滑らかな肌をしているので妬ましかったのである。そのあと、ダンス教室を出て通りを歩くときにも、
ダイアンは何度も羨ましいと繰り返した。
(「炎のごとく 写真家ダイアン・アーバス」 パトリシア・ボズワーズ 名谷一郎訳 文藝春秋 P460)