「私は自分ってものをどんな場合にも捨てられない。自分は自分だわ。逢いたくなったら逢うし、逢いたくなければ逢わずにいるわ」
「世の中の習慣なんて、どうせ人間のこしらえたものなのでしょう。
それに縛られて一生涯自分の心を偽って暮らすのはつまらないことですわ。わたしの一生はわたしが決めればいいんですもの」
「女である故にということは、私の魂には係わりがありません。女なることを思うよりは、生活の原動はもっと根源にあって、
女ということを私は常に忘れています」
「恋愛は咲き満ちた花の、殆ど動乱に近いさかんな美を、私の生命に開展した。生命と生命に湧き溢れる浄清な力と心酔の経験、
盛夏のようなこの幸福、凡ては天然の恩寵です」
「巣籠もった二つの魂の祭壇。こころの道場。並んだ水晶の壺の如く、よきにせよ不可にせよ、
掩うものなく赤裸で見透しのそこに塵芥をとどむるをゆるさない。 (中略) それ故ここに根ざす歓喜と苦難とは、さらに新しく恒に無尽に、
私達の愛と生命を培う。またそれ故、技巧や修辞の幻滅、所謂交互性の妥協、打算的の忍従、強要された貞操、かかる時代の忌まわしき陰影は、
私達の巣にはかげささない。牽引されず、自縄しない自由から、自然と湧き上がるフレッシュな愛に、十年は一瞬の過去となって、
その使命に炎をなげる。峻厳にして恵まれたこの無窮への道に、奮い立ち、そして敬虔に跪く私」
出典 「光太郎と智恵子」(新潮社)から