重要なのは、どの軍団がパリへの一番乗りを果たすか見当をつけることだった。キャパはアメリカ第十五軍団に賭け、
ラヴァルとルマンを通ってアランソンまでついていった。しかし、ファレーズの孤立地帯で足踏み状態に陥ると、
彼はもと来た道を戻ってルマンからシャルトルへ向かう途中の第二十軍団に合流した。
八月十八日、第二十軍団が二日間に及ぶ極めて激烈な抵抗を受けたあとでシャルトルを確保すると、
キャパはすぐに街の警察本部に足を運んだ。そこでは、レジスタンスのメンバーが、闇の商売をしていたり、
ドイツ軍兵士とベットを共にしていたような女性の髪の毛を剃っていた。
キャパがそこで撮りはじめた写真群は、頭を丸められたばかりの若い女性が、大勢の町の住民にあざけられながら、
自分の家まで追い立てられていく一枚でクライマックスを迎える。彼女の腕の中にはドイツ軍兵士とのあいだにできた赤ん坊が抱かれている。
ヘルメットをかぶった警官が侮蔑的な言葉を投げかけているらしいところをスナップした写真---そこでおそらくは辱めをうけているのだろう女性は、
グロテスクな悪魔に苦しめられている気高い聖母を思わせる---は、キャパのもっとも有名な一枚となることになった。それはまた、キャパが、
たとえ政治的な立場がどうであれ、個人が被る苦難に対しては率直な同情を寄せるということを、極めて深いかたちで示すものとなっている。
(「キャパ」 リチャード・ウィーラン 沢木耕太郎訳)