赤ん坊だって「衰え」ることはありうるわけだし、子供だって病気になれば「衰え」ます。となると、「衰え」は老人固有のものだとは言えない。でも、老人になるとだんだん「老い」と「衰え」が同じ意味に近くなっていくんだと思います。
「死ぬ」ということばも同じです。老人だから「死ぬ」とは限らない。赤ん坊だって「死ぬ」わけだし、若い人も交通事故で「死ぬ」こともある。年齢なんて関係ないということになります。だけど、老人は「死ぬしかないよ」となると、そうかもしれないということになっちゃう。そうすると、人から「老人性うつ病」といわれる状態に陥ってしまうんです。
若いときは「老い」と「衰え」の二つのことばで語れたとしても、老人の域に達すると曖昧模糊とした形で絡み合って、本質的には分けて考えた方がいいのですが、「老い」と「衰え」がうまく分けられなくなるということですね。
(「老いの流儀」 吉本隆明 NHK出版)