「やったことはとんでもないことだが、犯人(今、法廷にいる、すくなくともかつてはきわめて有能であった人物)はまったくのありふれた俗物で、悪魔のようなところもなければ巨大な怪物のようでもなかった。過去の行動及び警察による予備尋問と本審の過程でのふるまいを通じて唯一推察できた際立った特質といえば、まったく消極的な性格のものだった。愚鈍だというのではなく、何も考えていないということなのである。」
(「イェルサレムのアイヒマン」 ハンナ・アーレント 大久保和郎訳 みすず書房)