新自由主義理論は技術革新を、新しい製品、新しい生産方法、新しい組織形態の追求に駆りたてる競争の強制力にゆだねる。しかし、
この推進力は企業家の常識にあまりに深く埋め込まれているために、物神崇拝の対象さえなっている。
どんな問題にも技術的解決策があるというわけだ。企業ばかりでなく国家機構(とりわけ軍隊)の中にもこの考えが定着するにつれて、
技術革新の強固な自立化傾向が生じ、それは安定性を損ないうるだけでなく、場合によっては逆効果にさえなりかねない。
技術革新を専門とする部門がこれまで市場になかった新製品とその新しい使い方を編み出すような場合(たとえば新薬が生産され、
そのために新しい病気もでっち上げられる)、技術の発展が暴走する可能性がある。そのうえ、有能な新参者が技術革新を動員して、
支配的な社会的諸関係や諸制度を掘りくずすこともある。彼らはその活動を通じて、
自分たちの金儲けに有利になるよう常識さえもつくりかえるかもしれない。このように、技術の発展力学、不安定性、社会的連帯の解体、
環境悪化、脱工業化、時間・空間関係の急激な変化、投機的バブルなどといったことと、
危機を醸成する資本主義内部の一般的傾向とのあいだには、密接なつながりがある。
(『新自由主義』 デヴィッド・ハーヴェイ 渡辺治監訳 作品社 P99-100)