自らの手で死を迎えたDへ
妹よ、きみはいまわのきわに
子供の頃の遊びを思い出したろうか-
きっときみも覚えているはずだ-
庭の狭い塀の上を走ったことを
それは山の尾根だった
雪の積もった急斜面が両側に拡がり
真っ暗な谷底へと落ちてゆく
きみは少しでもバランスを崩しかけると
落ちるのがこわさに、自分から跳びおりたね
死ぬときはこうなのだと
ほんの一瞬、思ったにちがいない。
遠い昔のことだ。そして、きみはもういない
もはや大人のゲームをやめたきみは。
闇の上にはりだした岩棚でバランスをとりながら
下を見ないで走りつづける。
落ちるのがこわいから決して跳びおりはしない。
ハワード・ネメロフ
(「炎のごとく」 パトリシア・ボズワース 名谷一郎訳 文藝春秋)