「牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜」 (日野草城)
「やはらかきものはくちびる五月闇」(日野草城)
「冬ざれのくちびるを吸う別れかな」(日野草城)
「ちちろ虫女体の記憶よみがへる」(日野草城)
「まぐはひの女めつぶる渡り鳥」(加藤)
「葬ひのある日はもっとも欲情す」(上野ちづこ)
「待って待ってわたしの洞から血が削る」(上野ちづこ)
「おそるべき君らの乳房夏来(きた)る」(西東三鬼)
「男の目にまぶしい女の胸元よ」(西東三鬼)
「牡蠣というなまめくものを啜りけり」(上田五千石)
「倦怠(だる)い夏、だるい乳房、だるい蝶」(富沢赤黄男)
「エキサイトなき性交。倦怠期」(富沢赤黄男」
「花冷えのちがう乳房に逢いにゆく」(真鍋呉夫)
「うしろより耳朶(じだ)噛まれゐて陽炎(かげろ)へり」(藤真奈美)
「実柘榴(みざくろ)のかっと割れたる情痴かな」(鈴木しげ子)
「足ひらきジュラ紀の風を待つごとし」(大木あまり)
追記:「牡蠣というなまめくものを啜りけり」(上田五千石)には静岡県在中の齋藤博氏の解釈が以下のように紹介されている。
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「一句全体が性行為のメタファー。牡蠣は女陰、啜るはクンニリングス。平成16年に芥川賞を受賞した金原ひとみ(20)
の受賞後の第一作に次のようなくだりがある。『まんこの割れ目を両手で押しひろげて、クリトリスを舌で舐めあげた。』
斯くの如き表現の自由からも、かつての『チャタレー夫人の恋人』猥褻裁判は今は昔。玄牝、玉門、ヴァギナ、おめこ、女陰・・・。
エロスへの連想は、いつの世も止めどもない」
補足:上記の一連の官能俳句は2007年5月号「正論」(産経新聞社)の石井英夫コラム「世はこともなし?」に掲載されていた。
こういう俳句があるのかと正直良い意味で堪能した。面白い。俳句ならではの官能の世界だと思う。個人的に好きな句は
「おそるべき君らの乳房夏来(きた)る」(西東三鬼)と「牡蠣というなまめくものを啜りけり」(上田五千石)かな。とても艶めかしく、
かつ具体的て直線的に官能の世界に連れて行ってくれる。僕には全く不得手な文学である、それゆえ逆に面白く鑑賞できた。
これら一連の官能俳句は『俳句とエロス』(榎本一郎 講談社現代新書)の詳しく載っているそうだ。読んでみたいと思う。(amehare)