2007/01/25

鉄腕アトムが隠したテーマ

大塚:

「鉄腕アトム」の第一話をいつも僕は問題にして、本にも書いたことがあるんですけど、天馬博士っていう科学者がいて、その子供が交通事故で死んじゃう。その死んだ子供そっくりのロボットをつくるわけです。ところがそのそっくりのロボットは、ロボットなので成長しない。だからお父さんは怒って捨ててしまうという、すごいモチーフなんです。

つまりおとなになれない、生身の肉体を持てないことが「鉄腕アトム」の呪縛になっている。手塚さんは、この問題をどうしたかっていうと、実は「鉄腕アトム」の第一話は「アトム大使」(一九五一年。文春文庫「懐かしのヒーローマンガ大全集」などに所収)っていう話で、いろいろエピソードがあるんだけど、いちばん最後に、宇宙人がアトムに、「アトム君、きみはいつまでも子供のままでいてはいけないから」と言って、おとなのロボットの首を差し出して、アトムはその宇宙人からおとなの顔をもらって成長するという終わり方をするんです。

ところが、それは雑誌掲載時のエピソードで、それが単行本になってアトムが描き続けられる中で、そのエピソードはすぽんと切られちゃうんです。つまりアトムが捨て子であったこと、育たないこと、それから宇宙人から成熟の手立てをもらったことというのは一切捨てられて、いわば出自を隠蔽された子供として、「鉄腕アトム」は戦後最大のヒーローになるんです。ただ「アトム」が隠したテーマというのは一貫して生きのびていて、それはアニメ的な記号的身体とか、成熟、成長しない身体、しかしそこに成長をテーマとして付着させるとか、身体とかいうことを持ち込んでしまう。身体とか成長というテーマを手塚さんが隠したが故に、逆に大きな主題になっていって、その主題に対して戦後まんが史とかアニメーションはずーっと反応し続けている。

吉本隆明×大塚英志「だいたいで、いいじゃない。」文芸春秋2000年