2007/05/11

ダイアン・アーバス 近代美術館での観客反応

ダイアンは毎日のように美術館を訪れ、自分の作品のそばを歩きまわって耳をすました。そして、こう言っている。
「人の言うことを聞くのは好きです・・・・・・ひとりの婦人は写真を見てこう言いました。『このダイアン・
アーバスという写真家に会ってみたいものだわ』。つまり、こんなに気味の悪い写真を撮るからには本人も気味の悪い女だろうというわけです。
ご夫妻でやってきて、ご主人のほうが『これはいい写真だ。この人たちを昔から知っているような気がするよ』と言ったところ、奥さんのほうは
『まさか』と叫んだものです」


しかし、やがては耳をそばだてるのにうんざりしてしまった-感想のほとんどが「奇妙だ」、「醜い」、「いやらしい」、「誇張している」
、「ぞっとする」といった蔑みの言葉だったからだ。


友人たちからは、もっと心を強くして人が作品に否定的な意見をはいても平然としていられるようになれと言われた-人が何を言おうと、
それはその人間の問題であって、自分とはかかわりがないと考えるように、と、ジョン・パトナムは、ガートルード・
スタインがピカソをさとしたときの言葉を引用した。「すべての独創的な芸術は最初こそ違和感を与えるが、やがては受け入れられるのだ」と。


それでも、ダイアンはしだいにおちこんでゆき、ほめられても手放しで喜べなくなった。
じぶんとしてはひとりでこつこつ仕事をするのが好ましいと考えていたのだが、いまでは写真界のみならず、一般大衆が彼女の仕事に関心を持ち、
これ以後は何をやっても人に注目されることになったのだ。


(「炎のごとく 写真家ダイアン・アーバス」 パトリシア・ボズワーズ 名谷一郎訳 文藝春秋 P433-P434)