2007/04/08

ダイアン・アーバスをしのぶ詩(兄である詩人ハワード)

自らの手で死を迎えたDへ


妹よ、きみはいまわのきわに

子供の頃の遊びを思い出したろうか-

きっときみも覚えているはずだ-

庭の狭い塀の上を走ったことを

それは山の尾根だった

雪の積もった急斜面が両側に拡がり

真っ暗な谷底へと落ちてゆく

きみは少しでもバランスを崩しかけると

落ちるのがこわさに、自分から跳びおりたね

死ぬときはこうなのだと

ほんの一瞬、思ったにちがいない。


遠い昔のことだ。そして、きみはもういない

もはや大人のゲームをやめたきみは。

闇の上にはりだした岩棚でバランスをとりながら

下を見ないで走りつづける。

落ちるのがこわいから決して跳びおりはしない。


ハワード・ネメロフ


(「炎のごとく」 パトリシア・ボズワース 名谷一郎訳 文藝春秋)